MAGAZINES & PAPERS

日経産業新聞『部長講座』

「部下に「仕事をやりやすい」と思わせる」

2006/02/08

○責任はとるが細部は任せる

部下と上司の間には、大なり小なり、意識のずれがあるものだ。役割、立場、個性によって関心事は異なるし、ものの見え方も違う。上司にとっては会社の目的や目標が関心事であっても、たいていの部下は、違うことに関心をもっているものだ。部下にとって大切なのは「それで、自分はどうなるのか?」ということである。自分の仕事はどう変わるのか? 今後の自分のキャリアは? 報酬は? これらが彼らの基本的な関心事である。したがって、上司が新しい方向を示すときや、方向を変えるときには、まずは部下が知りたいと思っていることについての説明がいる。「そんなこと、いちいち言わなくても当然だ」という考えももちろんうなづけるが、実際に、仕事のしやすい上司、しにくい上司に関するリサーチの結果では次のような結果が出ている。

<仕事のしやすい上司>

・最終的な責任はとるが、部下の仕事の実績も公表するような上司
・話すとモチベーションがあがる
・自分のことをよく理解してくれている
・ある程度仕事の進行を任せてくれる
・必要なときにサポートしてくれる
・話を聞いてくれる上司
・自分の行動の動機づけに必要な目標設定を具体化して提示してくれる
・自分の仕事を評価してくれる
・個を大切にしてくれる
・話しかけやすい雰囲気を持っている
・明確な指示で権限委譲をしてくれる上司
・ビジョンが明確な上司
・能力、スキル、コミュニケーション力が尊敬できる

<仕事のしにくい上司>

・「役員会の決定」や「上層部の意見」など、権力の傘を楯に苦言等を呈する
・具体的に指示を出さない、または口に出さなくても部下が自分の思いを汲み取ってくれるべきだと思い込んでいる上司
・自分の身になって考えない
・部下の能力・性格・適正を考えないで仕事を投げる
・課題だけ出して方向性や目標を示さない
・コミュニケーション能力のない上司
・自分の立場の方を優先する人

これまでは上司の都合で仕事ができたが、部下の思いを尊重できない、上司に部下はついてこない。このことは、上司と部下の関係において、特に顕著になってきている。

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「上司の試金石は問題解決能力」

2006/02/15

○一歩踏み込んだ対話が必要

上司として部下に受け入れられるためには、いくつかの試金石がある。単に人がいいだけで部下がついてくるわけでもなければ、仕事ができるという理由だけでも部下はついてこない。また、理論を理解しているだけでは部下育成はできない。部下は、上司が、日常遭遇する問題をどのように解決しているか、その手際の良し悪しを見ているものだ。

たとえば、部下をもつビジネスマンの多くが抱えている次のような問題について、あなたはいくつ解決策をもっているだろうか?

1. 指示待ち・受け身の部下の自発性をどう高めるか
2. 報告・連絡・相談をしない部下のコミュニケーションをよくするには
3. 納期を守らない、遅刻をする部下にどうやって責任感を持たせるか
4. 営業が苦手で萎縮している部下を行動させるには
5. 現場や他部門と話をしない部下のコミュニケーションを促進するには
6. 目標やビジョンを持てない部下への関わり方
7. 仕事に自信がない部下に自信を持たせる関わり方
8. 顧客志向のない部下の顧客意識を高めるには
9. 会議で発言しない部下が発言できるようになる関わり方
10.自分の利益にしか関心がない部下に、会社に関心を持ってもらうには
11.自分にしか興味がなく、後輩を育成しない部下の意識を変えるには
12.自己主張が強く、人の話を聞かない部下の協調性を高めるには

以前、講演先で「部下が茶髪で会社に来たが、そういうときはどうしたらいいか」という質問を受けた。なぜ「茶髪で来るな」と言えないのかを尋ねると、「社則で特に禁止していない。しかし、客先には行かせられない」と言う。重ねて「あなたはどうしたいか」と聞くと、「もちろん茶髪はよくないと思うが、理解がないようにも思われたくもない」という答えが返ってきた。また、同じく講演先で「部下が何の前ぶれもなく、突然辞表を持ってくる。そういうときはどうしたらいいか」という質問を受けたことがある。部下が会社を辞める兆候には気づかなかったのか? 彼は、その部下と、前日まで普通に話していて、突然の辞表にショックを受け、自信も失っていた。

一般論では解決できないが、こうしたケースでは、表面的な会話は共有されていても、本音のところでのつながりに乏しいのかもしれない。いずれにしても、目先の方法論でこれらの問題は解決できない。一歩踏み込んだコミュニケーションを創りだすことが必要だ。

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「コミュニケーションは安心感を生む」

2006/02/22

日産自動車のゴーン氏に、スマップの香取慎吾君が質問をした。「成功の秘訣は?」彼は迷わず「透明であること」と答えた。社内が透明であること。それは、社内の暗黙知が言葉になっているということ。また、風通しのよさ、つまりは、コミュニケーションが充分に足りているということ。

人事考課のシステムを作るところまでは熱心でも、それを基に上司、部下の間ですり合せのためのコミュニケーションがなく、一方通行の通達になってしまうケースは少なくない。自己評価と上司の評価の誤差をテーマに話し合えるのは健全だ。お互いに思っていることを内向させないことが、健全な組織の第一歩だから。まずは、本音の見える関わりをつくること。つまり、本音が出ても大丈夫な関わりが必要だ。

コーチ・トゥエンティワンのメルマガ読者を対象にした調査で、現在の社内におけるコミュニケーションの仮題として、以下のようなものが挙がった。

・トップダウンだがビジョンが見えないこと。ボトムアップだが自由闊達ではないこと。
・コミュニケーションの重要性、傾聴の大切さを言葉では言っていても、行動が伴わない。上級管理者になればなるほど、その傾向がとても強い。
・誰が何を行なっていて、状況はどうなのかなどは、コミュニケーションが取れていると思う。ただ、逆に言えばそれだけという感じもある。会社生活での問題点、不安、心配 事を普段から話し合える職場にする必要がある。
・事業部や業境を超えたコミュニュケーションの必要性を感じている。
・上司がコミュニケーションを取ろうと口では言うが実践しない。
・連絡7割・報告3割で、相談が1割というイメージ。
・ワンウェイになりがちで、自分でも反省すべき点に気づいて、少しずつ改善してきている が、まだまだ不足点が多い。
・上司の威圧的な態度

上司がコミュニケーションをとる目的は、部下からの人気取りではない。チームを組んで仕事をするには、普段からの意志の疎通が求められる。急に仕事を与えて、それでうまく行くわけではない。自分は充分に理解されていると思うからこそ、部下は安心して動くことができる。充分なコミュニケーション、意志の疎通は、部下に安心感をもたらす。安心感がベースにあることで、関心が引き出され、やがて、行動へと転化する。やる気のベースは常に安心感にある。

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「部下の問いに答えているか」

2006/03/01

○素早い対応、組織を透明に

コーチングでは、単にコーチを受ける個人を対象にしているだけではなく、個人が所属する組織にどのように影響してゆくかを扱っている。いずれにしても、人間はたった一人で生きているわけではない。現在、どのような関係を築いているか? また、どのような関係を未来に向けて築いていくことができるか? コーチングにおいては、関係を築くこと、そしてコミュニケーションは常にテーマとして扱う。心理学者のアドラーは「人が仕事で失敗するのは、単に知識や経験が不足しているからではなく、90%以上は、そこに関わりを作り出せないから」と言っている。しかし、相変わらず、組織におけるコミュニケーションは、上から下への「指示命令」を徹底させることだと信じて疑わない上司は少なくない。確かに緊急を要する場合に「指示命令」は機能するが、常に緊急事態を発動すれば、部下の疲弊は免れない。

以下は、悪いコミュニケーションとはどのようなものかのアンケート結果からの抜粋である。

・相手を傷つけたりへこますためのコミュニケーション
・一方通行、強制、命令型、すなわち、相手の存在を意識しないコミュニケーション
・一方通行になっている。否定的。気負いがある
・指示の背景が不明など、納得度が上がらない対話
・上意下達。しかも十分な意図の提示が無いままの指示
・一方的、高圧的
・話の腰を折る、頭から否定する
・笑顔がない、笑いがない
・利己的、閉塞的、冷たい、機械的
・自分自身のみが納得してしまっている抽象的なコミュニケーション
・ハラスメントを伴う(セクハラ、パワハラ等)。言いたいことが伝わってこない。
・言いっ放し、フォローもないので真意も伝わらないコミュニケーション

これらの中でも、とくにマイナスの影響が大きいものは「投げかけた問いに対する答えが返ってこない」というものかもしれない。部下がやる気をなくす理由にはいくつかあるが、その中の一つに、仕事に関する提案を上げても、それに対する返答がまるでないというものがある。その提案を使う、使わないに関わらず、また、返答を待っているのにも関わらず、上司からは音沙汰なし。部下の中では、いつまでもそのことが気がかりになる。「自分の提案はどうなったんだろう?」この未完了感は、部下の次の提案への意欲を低下させ、上司への信頼を失わせる。上司は自分の出した指示には敏感だが、部下の発信した情報に鈍感になる傾向がある。

PCフォーラムの創設者である、エスター・ダイソンは、インターネットとは、「来たメールにすぐに返事を書くこと」と言っている。クイックリスポンスは、組織の透明度を上げると思う。

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「コミュニケーションの知能指数」

2006/03/08

○能力あげれば目標近づく

コーチングは、人が目標を達成するために必要な知識やツールを棚卸し、それを備えさせるプロセスである。コーチは、より速く目的に到達すること、より大きな目標を達成することに向けてコーチングする。目標に到達するということは、そのために必要なコンピタンシーを速やかに、確実に身に着けることで実現する。

たとえばアメリカでは、清涼飲料水を扱う会社の社長が、次の日からコンピューター会社の社長になるというように、社長のコンピタンシーを満たしている者が、業種を越えて、社長の役割を担うことがある。そして、経営者、管理職のコンピタンシーの中で、コミュニケーションは最も大切な能力の一つである。

しかし多くのリーダーは、実はコミュニケーションを過小評価する傾向がある。「コミュニケーションは確かに大事だが、その前に、生産性の向上、テクノロジー、商品開発、デザイン、社内のインフラを整えること、そういう問題のほうが優先順位が高い」と思われているものだ。また、コミュニケーションの影響は偶発的なもので、特にスピードを要求するときには、むしろ邪魔になることがあると考える向きが多い。コミュニケーションは、具体的な成果と結び付けにくいと考えられているのだ。

コミュニケーションは「価値を生み出すもの」ではなく、空気のように、自然で当たり前のものだと誤解されている。しかし、実際にはリーダーのコミュニケーション能力が上がることは、直接、間接的に生産性に影響する。イギリスのシェフィールド職業心理学研究所の調査によれば、コミュニケーションの能力を上げることは、個人の、また、組織の目標に確実に近づいてゆく確かな方法だということが明らかになっている。コミュニケーションの能力とは、一言で言えば「速やかに価値を創出することを目的にデザインされた話の聞き方、話し方」と言える。コミュニケーションの知能指数が高いということは、つまりその能力が高いということである。

コーチングでは、たとえどのようなテーマを扱っていても、クライアントのコミュニケーションIQに着目する。そして、コミュニケーションを偶然のものにしない。コミュニケーションが創出する価値に向けて、それをどうデザインするかについて、コーチはクライアントとコミュニケートする。

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「コミュニケーションスキルを認識」

2006/03/15

○周りからフィードバック

私たちのコミュニケーションは出たとこ勝負、または相手の出方への対応に追われるケースが多い。しかし、コミュニケーションに目標をもたせることは可能である。有益なコミュニケーションとは、共通の目的のもと、互いの創造性を刺激し連携が取れることだ。また、説明責任を明確にし、実行に移すこと。それまでのパフォーマンスを見直し、改善につなげるためのフィードバックのサイクルをつくることだ。そのためには、今の自分のコミュニケーションの状態がどのようなものであるかを知る必要がある。

自分のコミュニケーションスキルに対する評価についてアンケートしたところ、「どちらかというと高い」もしくは「普通」との回答が全体の71%を占めた。一方、別の調査で自分の上司のコミュニケーションスキルについて聞くと、ほとんどが「普通かそれ以下である」と答えた。つまり、私たちの多くは、自分がコミュニケーションによって受けている影響には目が向いているが、自分自身のコミュニケーションについては、「よい」「普通」と評価していると考えられないだろうか。

通常、エグゼクティブ・コーチングにおいては、コミュニケーションに関する360度フィードバックシステムをつかう。周りからのフィードバックがあって初めて、自分のコミュニケーションの実態に気づく場合がよくあるからだ。自分のコミュニケーションを振り返るのが難しい一番の理由は自分のアイデンティティーとコミュニケーションがあまりにも同化しすぎているからかもしれない。その人を変えるのはコーチングの目的ではないが、コミュニケーションのスキルは変えられる。まずは自分のコミュニケーションの現状に目を向けてみましょう --- 私は、必ずクライアントにそう伝えている。

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「感受性高めて組織活性」

2006/03/22

私たちは、心のどこかで、いつか胸のすくようなセリフを吐いて、相手をぎゃふんと言わせてみたいと思っている。また、会議の席上でため息がもれるようなプレゼンテーションをしてみたいと思っている。私たちは、コミュニケーションの影響力は決して小さくないことを知っている。また、論理的で、立て板に水が流れるように話す人を、羨望のまなざしで見てきた。

そこで、コミュニケーションに対してどのような課題をもっているかについてアンケートをとったところ、次のような結果を得た。

・相手のタイプやおかれた状況に応じた使い分けができない
・ロジカルな思考性がない
・相手の予想外の反応・質問に対する柔軟な対処
・感情を常にコントロールしきれていない。
・もっと、相手が構えないように接することができるようになりたい
・言い難いことを素早く言うことができない
・言葉を端的にまとめて話したい
・感情的になりやすい
・ファシリテーションスキルがない
・内容をわかりやすく相手に伝えるテクニックに欠けている
・自分から積極的に働きかけていこうとする姿勢が足りない
・コミュニケーションを受ける際に、自分の思いこみや先入観で決めつけることがある
・好き嫌いが激しいので、見た目や雰囲気だけで「話さない人」と決め付けてしまう
・ロジカルにわかりやすく説明できない
・ここ一番での強い押し、強いメッセージを送ることができない

コミュニケーションは確かに相手に影響する。その程度を推し量りながら、発信したり受信したりしているのだが、ともすると、論理的思考ができ、理論的であることが、コミュニケーションの最重要課題であると誤解される傾向がある。しかし、実際に問題となるのは、論理的であっても感受性が欠落していて、人とコミュニケーションを交わしているという実感に乏しいことだ。人には感情というものがある。たとえ相手の言うことが正論だからといって、必ずしもそのコミュニケーションに同意するとは限らない。感受性の低さとは、人とものの区別がつかないことを意味し、一緒に仕事をするものにとっては、決して居心地のいいものではない。コミュニケーションIQにとって、感受性は大切なものだ。感受性は創造性と結びつき、また、組織全体のモチベーションにつながる。私たちは、もっと自分の感じていることを大切にする必要がある。論理、理論だけが理性なわけではないのだから。

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「自分自身ともコミュニケーション」

2006/03/29

○直観排したら伝わらぬことも

脳科学者の茂木健一郎氏が、その著書『脳の中の人生』で、アメリカの神経科学者、アントニオ・R・ダマシオ博士を紹介している。ダマシオ博士は、私たちの脳は内臓の影響を受けて直観を得ていると主張する。脳の中で情動系を司る部分は内臓から多くの情報を得ており、そのはたらきが、「これはいけそうだ」「これはだめそうだ」という人間の直観を支えているというのだ。

理性を重視している人は、何にでも根拠を求める。私たちはともすると根拠がないからと直観を軽んじ、無視してしまうことがよくある。しかし、もともと直観に、論理的な理由などないのである。一般に、論理的思考の過程では、身体の反応は切り捨てられてしまう傾向がある。しかし、前回も書いたように、知性だけが理性なわけではない。

さて、コミュニケーションというと、通常の場合、自分以外の誰かとのコミュニケーションが前提となることが多い。しかし、実は、コミュニケーションには二つの種類がある。それは、他人とのコミュニケーションと自分自身とのコミュニケーションだ。前者をインターパーソナル・コミュニケーション、後者をイントラパーソナル・コミュニケーションという。自分自身とのコミュニケーションとは、自分の身体の状態や、考えていること、思っていること、欲求、感情などとのコミュニケーションのこと。インターパーソナル、イントラパーソナル、この両方のコミュニケーションがあって初めて、本当の意味でコミュニケーションが成り立つ。単に合理的で論理的な言葉のやり取りだけで、コミュニケーションは成り立たない。コミュニケーションを交わしている最中に、今自分がどんなことを感じているのか、また、何を望んでいるのかといった自分自身についての情報を、そのコミュニケーションの中に入れないと、実はコミュニケーションが通じない。ひとりの人間とひとりの人間が関わっているという、今ここでの「生の情報」が交換されることで、私たちはお互いに、生きた人間であるというコンセンサスをそこにもつ。それ抜きにコミュニケーションは成り立たない。したがって、自分とのコミュニケーションを排除して、例え論理的であったとしても、それは、人には伝わらないのである。

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「コミュニケーション力、自他で認識差」

2006/04/05

○ソフトの問題でも軽視は禁物

企業のマネジャー層に対して行ったリサーチで70%以上の人が、自分のコミュニケーションスキルを普通科それ以上であると評価していることについては以前に紹介した。今回、まわりが自分のコミュニケーションをどう評価しているか聞いたところ、同じような結果が出た。

しかし、これらはあくまでも、自己認識の範囲を出ない。実際に部下である立場の人に上司のコミュニケーション能力について質問すると、「まるで話を聞いていない」「一方的」「普通にコミュニケーションが交わせない」などの声が多い。調査の結果から見る限り、そこには、歴然とした認識の差がある。

上司は確かに、部下と言葉を交わし、意思の疎通を図っているのだろう。しかし、自分のコミュニケーションが部下にどのような影響を与えているかの認識はあまり高くない。まわりがどんなに迷惑していても、自分では問題がないと思い込んでいれば、コミュニケーションを変える理由はない。

多くの人は仕事におけるコミュニケーションの価値を過小評価しがちだ。生産性、効率、テクノロジーといったハードな問題と比べれば、コミュニケーションはいわばソフトの問題であり、差し迫った問題ではないからだ。

さらに言えば、毎日コミュニケーションを交わしていながら、自分たちの交わしているコミュニケーションが自分たち自身にどのような影響を与えているかについて、知る機会がない。つまり、コミュニケーションをテーマに、コミュニケーションを交わす機会がないのだ。そのために、自分のコミュニケーションを見直したり、変えたりする機会を失っている。仕事の90%を占めるコミュニケーションについて、知る機会は少ないのだ。

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「コミュニケーションで価値向上」

2006/04/12

○業績伸ばしてリスク減

コミュニケーションは、会社組織の中にあって「価値を生み出すもの」としてではなく、「空気のように自然で、あたりまえのもの」と考えられているが、それは誤解だ。社内のコミュニケーションに着目し、それを改善することで、飛躍的に業績を伸ばしたり、リスクを減らしている企業が生まれている。たとえば、離職率の高い組織で、部課長全員が「聞く能力」を上げるためのコーチングを受け、離職率を5分の1に減らすことに成功した企業がある。また、2時間の会議で1時間55分話し続ける経営者が、コーチングを受けて、発言時間を30分に制限し、他の取締役の発言を促すようになり、それが大きく業績に影響したという自動車のディーラー。

ある企業では、人事評価のシステムを導入したものの、上司の面談する能力が低いために、社員のモチベーションが落ちるという問題が起こった。そこで上司の面談のスキルを上げるためにコーチングを導入し、実際に部下とどのようにコミュニケーションをつくりだすかについて検討した。たとえば、部下の自己評価と、上司の部下に対する評価を比べ、その違いについて、部下が思っていることを聞き、上司も伝える。そうすることで、次の目標が見えてきたり、目標に対する「同意」をもつことができるようになった。人事評価システムとは、システムそのもので部下を評価するわけではなく、評価システムというツールを間において、お互いにコミュニケーションを交わし、そこに「同意事項」を重ねることで評価するために使う。

組織は、くもの巣のように張り巡らされたコミュニケーションの中で働いている。コミュニケーションを交わすことで、私たちはものごとを認識し、行動を選択している。コミュニケーションがなければ、もちろん組織は動かない。また、組織内のコミュニケーションの質が低ければ、品質、モラル、モチベーション、チームワーク、顧客に対するサービスに影響が出るだろう。コミュニケーションは、個人と組織に確実に価値をもたらす。少なくともコミュニケーションは単なる情報交換などではない。そのためにも、コミュニケーションについての理解を深める必要がある。コミュニケーションについての解釈を広げたり、見直したりする機会を失うと、知らない間に資源の無駄遣いが起こってしまう。

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「コーチングで誤解を解消」

2006/04/19

○対話で価値生み出す

コミュニケーションに対する一般的な認識とは、次のようなものだろう。

・組織において、テノクノロジー、生産性、などのハード面から見るとコミュニケーションは ソフトな問題で、優先順位が低い
・コミュニケーションは個人の問題であり、組織の問題ではない
・自分のコミュニケーションにはほとんど問題はないと思っている
・コミュニケーションと生産性は直接、関係はない
・コミュニケーションは組織のスピードを遅くする
・コミュニケーションは、ときに組織を混乱させる ときに浪費を生じさせる
・コミュニケーションは空気のようなものである
・コミュニケーションよりは、規則、予測、費用対効果、効率、ハイパフォーマンス、モティベーション、確実な収益、投資の回収、プラン、役割、経験、スキル、リーダーシップ、これらが優先する

仕事上、コミュニケーションは不可欠であることは言うまでもない。しかし、一方で「仕事中は無駄口をたたくな」「結論から言え」「口だけじゃないか」「いっぱしの口を利くな」「実績で示せ」と言われる。特に、新人や若手社員は、こうした言葉の前で、口を閉ざさなければならなかった。

振り返ってみると、仕事とコミュニケーションは、どこか切り離されてきた節がある。確かに「ものづくり」の世界では、コミュニケーションよりも経験や技が求められてきた。そのイメージは 特に40代、50代の中に、いまでも根強く残っている。無口な技術者という存在が、どこか信頼のシンボルのように思われてきた。

しかし、コミュニケーションは無口の対極にあるものではない。私たちはコミュニケーションを交わすことによって、生産性、収益、イノベーション、サービス、教育の領域において「価値を生み出している」。デザインされたコミュニケーションにより、個人と組織はその価値を享受している。そして、デザインされたコミュニケーションのひとつとして「コーチング」がある。

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「コミュニケーションの目的確認」

2006/04/26

○風通しのいい組織に

コミュニケーションが難しい一つの理由は、コミュニケーションに関するルールの確認がないまま、コミュニケーションが実際に交わされている点にある。目上の者には、敬語、尊敬語を使うことなどといった、上下の間でのコミュニケーションに了解事項があるだけである。一方で、一方が話しているときには口を挟まない、結論の先取りはしない、自分の考えを言っても仕返しはされない、などのルールはない。一応、表面的には、コミュニケーションとはかくあるべきという理解はあるが、決してそこに同意があるわけではない。「口の利き方を知らない」、「長幼の序というものを知らない」、「言葉遣いに気をつけろ」、「誰に向かって喋っているんだ」、「いいから、黙って聞け」、「仕事もろくにできないくせに」など、上司はいざとなれば、伝家の宝刀を抜く。もっとも、最近はそれもあまり通用しない。

さて、本来、コミュニケーションは、年齢、役割を超えて、対等な立場で交わされるものなのだが、それについても同意はない。会話が混乱するのは、話の内容、意見の食い違い、そのものにあるのではなく、コミュニケーションに対する理解、そのルールに対する真の同意がない点にある。

たとえば、コミュニケーションを交渉の手段として考えるか、コミュニケーションを介してアイディアを創出するのか、コミュニケーションを交わして、協力、協調を創り出すのか、というように、どのような目的をコミュニケーションにもたせるかによっても、意味は違ってくる。そうなると、普段からコミュニケーションをどのようにとらえているかについて、まず、コミュニケーションを交わす必要がある。

このことを「メタ・コミュニケーション」と言う。コミュニケーション全般について、また、今ここで交わしているコミュニケーションが、お互いにどのような影響を与えているかについて、それをテーマに、コミュニケーションを交わすのである。それを、会議やちょっとしたミーティングで話題にするだけで、コミュニケーションは変る。それは、風通しのいい組織風土の醸成につながる。

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「コミュニケーションは創造を生む」

2006/05/10

○フィードバックと改善、重要

米国の心理学者であるハーレーン・アンダーソン氏は、コミュニケーションの目的について次のように語っている。「対話を通じて、意味や理解が再解釈、明確化、改定されていく。意味や理解に新しいものが生じたときには、思考、感情、気持ち、行動などが新しく生まれる可能性がある」

人は何をもってコミュニケーションスキルが高いと考えるのか? そのことについてアンケート調査を行ったところ、次のような回答が寄せられた。

・「誰にでも」「いつでも」同じ態度で接することができる
・興味をもって対応できる
・想定外の質問を受けた場合、もっとも明快で単純でわかりやすい回答をすぐに返すことができる
・自分の考えを正確に伝えることができる
・相手から必要な情報を引き出すことができる
・グループ内で情報を共有化し、課題を明確化することができる
・日頃から、上司、部下、同僚と十分なコミュニケーションを交わしている
・相手の立場に立った考え方をする
・その場の雰囲気を感じ取って、その場の雰囲気に合わせた話し方や話題を提供できる
・自分から進んで、どんな人にも挨拶をする
・感情的にならず、落ち着いて話ができる
・威圧感なく相手の気持ちを吸い上げられる
・相手の言うことに真摯に耳を傾ける
・いろいろな状況やことを“受け入れる”姿勢をもっている
・対人関係において、決して冷たさを感じさせない
・相手のことを理解してから、自分のことを理解してもらおうとする
・相手を尊重する態度を示すことができる
・初対面の人とも話題の接点を探りながら会話ができる
・自分の発言から逃げない

誰にでも真摯で、平等な態度で接する。感情のコントロールができている。相手の話に耳を傾ける。発言が簡潔である。そして、単に二人の間でコミュニケーションを交わすだけではなく、その「場」を読む力も求められていることがわかる。「場」にふさわしい話題、「場」にふさわしい言葉の選び方。それだけではない。今の相手の気持ちを察する能力も求められている。コミュニケーションは、単に知的で論理的なだけではなく、豊かな感受性を必要としているものだ。また、今の自分のコミュニケーションの能力に対する「フィードバック」を受け、自分のコミュニケーションを改善してゆこうとする姿勢も求められる。

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「効果的な質問こそリーダーの責務」

2006/05/17

○ビジョンの明確化の一助に

リーダーという役割を与えられると、「何でも知っている」「なんでもやれる」べきだと思いがちだし、思われがちだ。リーダーとは、聞かれたこと全てに、速やかに、正しい答えを与えられる。それがリーダーの条件だと思われているところがある。しかし、優れたリーダーは、知らないことは、知らないと認めることができる。また、答えにくい質問をされたときには、虚勢をはらずに、真摯な対応をすることができる。一般に、リーダーの条件とは、判断力、カリスマ性、強引さ、正直、などが考えられるが、リーダーに求められるのは、質問されたことに対する真摯な態度。そして、相手を啓蒙する「効果的な質問」を創り出す能力にある。リーダーシップには、刺激的で、視点を動かし、興味をかきたてるような質問を、その場、その場で、創り出す能力が必要とされている。

また、効果的な質問は、単に部下に対してだけではなく、上司に向けてもなされる。たとえば、上司が会社のビジョンをなかなか話してくれない、または、それが不透明であるときに、それを嘆いたり、愚痴っても始まらない。それよりも「この1年で会社 はどう変わると思いますか?」という質問をすることで、上司がビジョンを話す手助けになるだろうし、直接ビジョンについて質問していなくても、実はビジョンを聞くことができる。同じように「これから、われわれの業界はどうなって行くと思いますか?」という質問も機能する。こうしてみると、質問は単にわからないことを聞くためのものではなく、お互いの「視点を変える」「ビジョンを明らかにする」「問題点を明らかにする」「リソースを見つける」など、さまざまな目的があることに気がつく。また、創造的な質問をすることで、本人さえも気がついていない「アイディア」を引き出すことができる。効果的な質問は、質問に答える側の可能性を広げることに役立つ。それは、上司であっても例外ではない。

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「自分への質問 成長の糧に」

2006/05/24

○問題解決へ視点変える

自分自身への質問は、人の成長に欠かせないものだ。自分への質問を通して、人は自分自身について知る機会を手にする。それは単に、成功しているか、失敗しているかの検証だけではなく、その背景にある理由を知る助けになる。仕事や人生でうまくいっている人たちは、自分の仕事への態度や、人生そのものを常に検証しているものだ。つまり、自分に対して効果的な質問をしている。

効果的な質問とは、パターン化しがちな考え方や行動に縛られず、視点を変え、新しい行動へ向かわせるものである。たとえば、問題の解決を迫られたり、障害にぶつかったりしたとき、「どうしたらいいんだろう?」「なぜ、こんなことをしてしまったんだろう?」といった、自分をますます袋小路に追い込むような質問を自分に向けるのではなく、具体的に問題を解決する糸口を見つけることに注意が向くような質問を自分に投げかける方が有効だ。

たとえば、「この問題の解決策を3つあげるとしたら、それは何か?」「問題を解決するのにどの程度の時間をかけることができるか?」「相談するとしたら、誰に相談するか?」「この問題を解決できたら、自分にとってどんないいことがあるだろうか?」。

普段私たちは、自分にどんな質問をしているか、それに気がついていない。また、自分にどんな言葉を投げかけているかにも気がついていない。「自分は本当は能力がないのではないか?」「どうして同じ失敗ばかりしているのだろう?」「なぜ、あれをしなかったんだろう?」「なぜ私は幸せではないんだろう?」「私はこのままでいいのか?」。もし、気づかないうちに、自分に対してこういった質問をしたり、言葉を投げかけたりしていれば、当然行動は萎縮するし、気もちも明るくならない。普段、自分にどんな質問を投げかけているか、また、どのような質問が自分にとって有効で、効果的かを観察し、自分への質問をいくつか試してみる。「仕事への熱意はどこから持ってこられるだろうか?」「自分はどんな人として記憶されたいだろう?」「1年後に自分はどうなっているか?」自分にヒットする質問を見つけると、やがて、周りの人たちに効果的な質問をすることができるようになる。お互いを創造的に発展させるコミュニケーションは、そこによい質問が投げかけられることによって成り立っている。

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「次の会話につなげる質問」

2006/05/31

○正しい答えを求めない

質問をするときには原則がある。1つは、質問は1回にひとつだけにするということ。「経費を節減するためには、どうしたらいいと思う?」、「君のコスト感覚について話してほしい」、「このままいくと、会社は将来どうなると思う?」 一度に複数の質問を投げかけると、答える側にとっては苦痛なものである。また、複数の質問の背景には、質問をする側の「不安」が反映される場合が多く、質問という名の「詰問」になりがちだ。質問は一回にひとつ、そして、質問をした後は、相手に考える時間を与えること。2つめの原則は、質問を重ねること。上司はたいてい、部下に質問をひとつして終わる。「どうだ、調子は?」、「元気か?」、「例の仕事はどうなっている?」。そして、「あ、そう。がんばれよ」これでは、単に上司の権威をひけらかしているだけである。

「元気か?」
「はい」
「元気を維持する秘訣は何?」
「休みにはフットサルをやっています」
「ほう、どこでやっているのかな?」

質問を通して、部下への関心を示し、部下への理解を深める。もちろん、続けざまに質問をするのではない。もしかしたら同じ答えに対して「もう少し詳しく話してみてくれないか」と言ってもいいだろう。マネージャークラスの社員に対して、もっとコミュニケーションの量を増やして欲しいと言うと、「何を話したらいいのかわからない」「用もないのに話さない」という答えが返ってくる。しかし、質問によって「会話」をスタートさせることができるのである。

アメリカの心理学者であるハーレーン・アンダーソン氏は、私に「あなたってどんな人?」と質問し続けた。彼女は、最初に会った日も、2日目も、3日目も同じ質問をした。しかし、同じ質問でありながらも、毎回それは新鮮であり、答える私自身も、自分について新鮮に答えることができた。そこには、正しい答えを求めているのではなく、自由に思ったことを言っていい、矛盾していてもいい、という前提があったからだ。

最後に、3つめの原則である、私の答えたことに、彼女は常に「ありがとう」と言った。「ありがとう」でもいいし、「話を聞けてよかった」でもいい。いずれにしてもお礼を伝えること。それは、次の会話へとつながっていくのである。

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