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堀越正男

[No.59]  堀越正男のおすすめ
黒と茶の幻想
恩田陸著(講談社)


久しぶりに昔懐かしい居酒屋に集まった大学の同窓生4人。杉の大木で有名なY島への旅行計画に盛り上がる。言い出しっぺで幹事役を務めることになった彰彦から、旅のテーマが提示される。

テーマのない旅は淋しい。旅のテーマは「非日常」。サブテーマは「安楽椅子探偵紀行」。大自然の中で精神を解放し、錆びついた思考力と第六感を研ぎ澄まし、普段我々が忘れ去っている人生の謎を考える。子供の頃の記憶、毎日通る街角で目にするもの、小耳に挟んだ噂ばなし、謎の種類はなんでもOK。“美しい謎”持参のこと。

それは過去を取り戻すための旅行。過去の中にこそ本物のミステリーがある。10数年前の自分を喚起させるメンバー、より深い思索をするに格好の俗世と隔絶されたY島の森の中。そして自分の中の森。参加者は、利枝子、彰彦、蒔生、節子の4人。しかし旅の中心に居るのは藤原憂理の影。蒔生と利枝子が別れる原因になって以来音沙汰もなく、生きているのか死んでいるのか…。

全4章の物語は、それぞれ4人の登場人物の一人称で語られる。共有した青春ゆえの連帯感。予定調和で終わらない楽しい会話と謎解き。すでに若さを回顧する年代になってしまったことの哀愁。過去の罪。ちょっとほろ苦くせつなく読み終わった。読者によっていろいろな読み方ができるのだと思うが、良い小説を読んだという思いは共有してもらえると信じる。

「ミステリ作家が選ぶ幻想ミステリこの一册」というアンケート企画で、国内ベスト1として中井英夫『虚無への供物』、海外ベスト1としてロレンス・ダレル『アレキサンドリア・カルテット』、と答えていた恩田陸。本書はオマージュか?

恩田陸はいま旬な作家だ。今年は大ブレークが期待される。彼女がいままで築いてきたものの集大成がここにはある。


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